匝の観察ノート

オナガウジの観察

Note.001  匝
2009/5/4
目 次
 外 観
 動 作
 生 態
  概 要
 2007年12月、小田原の勤め先屋外にある大水槽に茶色いが体内が透き通って見える生物を多数発見した。ネットで検索したところ“オナガウジ”と呼ばれるハナアブの幼虫であり、水中に堆積した植物などの有機物を食餌とする触れても無害な生物であることを確認。その後、数匹を捕獲し、その生態を観察した。

  外 観
 オナガウジはハナアブの幼虫であり、ハナアブはハエのなかまである。ハエの幼虫は通称ウジと呼ばれるが、多くは脚はなく、口鉤(こうこう)と呼ばれるカギ状の顎を引っかけるように使い歩行するとされる。

 オナガウジの場合、写真1にあるとおり5対の脚が確認できた。昆虫は胸部に3対の歩脚があるとされているので、尾部側の2対は腹部の付属肢とみられる。多くのウジが無脚であるのは粘度の高い腐肉や糞便の表面を這うだけであるが、オナガウジは水中内の広範囲での移動を行うからと考察される。
 写真1のオナガウジはつまみ上げた後、縮こまり身動きしなくなった。しばらく後に動く始めたので外敵に襲われると死んだふりをする習性があるものと推察されるが、陸上ではうまく身動きができないことも考えられる。


 オナガウジの体長は尾部を除き概ね10mm程度であった。写真2でみる尾部は呼吸をするための管状の器官であり、水深に応じて伸縮することが可能である。尾部は伸縮できるが管自体の長さは決まった長さとみられ、尾部が短い場合は管は体内に収納していることが透けて観察される。呼吸管の最大長は不明であるが、ネット上の情報では体長の3倍は伸ばすことができるとの記述があった。
 写真2でもわかる特徴は体内にある太く螺旋を描く白い2本の管である。ネット上の情報では気管との記述があった。


 写真3は頭をもたげた際の写真であるが、口の部分に牙のようなものが観察された。この口器は多くのウジにみられる鉤口と推察される。オナガウジは水底に堆積した葉などの堆積物を食餌としており、その腐敗した葉を食べるため、および移動のために鉤口を使っているのではないかと考察する。発見場所では腐乱したホテイアオイが堆積していたため、これらを食べていたものと推察される。
 頭部の赤い点のようなものは位置的に眼ではないかと推察するが、光などにどのような反応をするのか不明である。
 体表には多くの茶色い産毛のようなもので覆われていた。

  動 作
 身体全体が浸るような浅い水量だと、頭を伸ばし口(鉤口)を引っかけた後、前脚から順に前進させるように進む様子が、次の動画のように観察された。

 ビーカーに水を入れオナガウジを投入すると、ビーカー壁面に到達するまで身体をよじるように動かしているだけであり、観察した限りでは泳ぐことはできないようであった。観察した限り体重よりも浮力が勝るようで沈むところは観察できなかった。
 ビーカー壁面に至り脚の動かし方が観察できたが、うまく鉤口を使うことができないためか、口を使った移動はうまくできないようであった。掲載した動画には含まれていないが、呼吸管についてはビーカーに投入した際、ほぼ常に先を水面に出しており伸びる様子も少し観察できた。またオナガウジがビーカー裏手に回ったため、ビーカーを少しずらしただけで縮みこむんでしまい、外部からの刺激に過敏な反応をするようである。

  生 態
 ハナアブはハエの仲間。ハナアブはハチに擬態しているが、わかりやすい違いは翅の枚数がハナアブ(ハエ)は左右2枚に対し、ハチは4枚ある。
 成虫はミツバチ同様に花粉や蜜を吸い、花粉の運び手として虫媒花の役に立っている。
 幼虫は上述の通り水中の有機物を分解する役割を担っている。ハナアブの仲間のうち、アブラムシを食べるもの、朽木やキノコを食するものもいる。
 人間との直接の利害関係はないが、幼虫の見た目の悪さが不快昆虫として認識され嫌われている。益虫としては、シマハナアブが温室での授粉作業のため人工的に増殖された。害虫としては、ハイジマハナアブの幼虫がタマネギを食害する。
 今回、観察したハナアブは、先達の方が飼育して“アシブトハナアブ”と同定されたものと同種とみられる。
 ハナアブ入門:http://homepage2.nifty.com/syrphidae/beginner.htm